課題の分析方法について、学ぶ機会は少ない
世の中は課題で溢れている。 働いていると様々な課題が出てくるし、働いていないところでも課題に直面することは多々ある。
しかし、自分がこれまで受けた学校教育を振り返ると「与えられた具体的課題の解法(how)」を考えることがほとんどで、課題自体について考えることはあまりなかった。 強いて言えば、大学の研究室時代に研究テーマについて考えたことくらいだろうか。
課題の解決方法(how)については、インターネットや書籍を参考にしてある程度対応できる(もちろん、何年もの研究を通じて出ないと解けない課題もあるが)。 特にソフトウェアエンジニアの世界では先行事例やブログ、カンファレンスなどから how を学び取れることが多い。
しかし、「何が課題なのか?」を分析し、解くべき課題を考える方法を体系的に学んだことはなかった。 そこで、この記事では「いかに解くべき課題を分析するか」についてまとめたいと思う。
こうした課題の分析手法を体系化し、整理することには大きなメリットがある。
- ステークホルダーへの説明が行いやすく、理解が得られやすい
- 他のメンバーとの議論のベースを高めることができる(議論している対象の認識を揃えやすい)
- 課題に対してインクリメンタルに考察できる(振り出しに戻ったり、前提に戻ったりしづらい)
これらについて、具体的な分析をもとに説明していこうと思う。
課題とはなにか
まず、課題とは何か?
辞書によると「解決しなければならない問題」とある。ここでのポイントは「解決する必要があるもの」であることだ。 解決しなくて良い、あるいはそもそも解決できないものは課題ではないのだ。
「永遠に生きていたい」という課題は課題のように見えて解決ができない(絶対とは言えないが…)ため、課題ではないと考えることができる。 ちなみに、「長く生きていたい」はより現実味があり、こちらは課題といえる。
課題は構造を持つ
一般的に課題は複雑な構造を持つ。先程の「長く生きていたい」という課題について考えると、
長く生きていたい
↓
どうすれば長く生きられるか?
↓
健康を保つ、ストレスを減らす
↓
運動を増やす、食生活を見直す、睡眠時間を増やす、家族といる時間を増やす、...
↓
時間が取れていない、お金が足りない、...
というように、課題についてなぜなのかを考えていくと、様々な原因が考えられる。 さらに、原因と原因の間にも関係があり、例えば「運動を増やすためにジム通いするが、そうすると帰りが遅くなり、睡眠時間が減る」というようにトレードオフの関係を持つ構造が現れる。
抽象的で難しい課題であればあるほど、複雑な課題の構造を分析する必要がある。
喉が乾いた ⇢ 水を飲む、というように効果的な対応方法が簡単に行える場合、課題の構造について考えることはない。
課題を分析し、解決するまでの順番
ここから具体的な課題の分析と解決する方法について記載する。
まず、課題解決をするためには、大まかな流れが存在する。
- 何が課題かを明確にする (WHERE)
- その課題の原因を深堀りする (WHY)
- 取り組むべき課題に対しての対応策を考える (HOW)
これらについて説明する。ちなみにこの方法は一筋縄ではいかないような課題が対象であることを留意してほしい。
(1) 課題を明確にする (WHERE)
課題解決する上では課題の全容を把握して焦点をしぼる必要がある。 例えば、身体の具合が悪いときに「気分が悪い」という課題と「胸の下のところがムカムカする」という課題では、後者のほうが、部位が特定されている分、解決に近づくことが多い。
自分はソフトウェアエンジニアだが、システムのトラブルシュートについても同じことがいえる。
利用者からは「うまく動かない」という課題が報告される。 その際に、まず行うのはどこで何が問題になっているかの特定だ。 このとき、システムの中でどこが (WHERE) 問題となっていそうかあたりをつける。
システムに触りたての頃は、システム全体を把握していないため、問題となる箇所の特定が難しい。 しかし、そのシステム運用を長く経験したり、各コンポーネントの役割を理解することにより、どこが問題となっていそうか見当がついてくる。
ここで重要なのは、システム全体を知って、その上でどこが (WHERE) 課題になっているかを見極めることだ。 課題解決の話に戻ると、課題に抜け漏れがないよう全体をつかみ、どこが課題かを突き止める。
では、どうやって課題の全体をつかむのか? そのために、下記の点について考える。
- 解決したい課題を定める
- その課題に対する切り口を考える(切り口は複数ある)
- 切り口で状況を分けて、俯瞰して見てみる。漏れや重複がないか確認する
このステップを miro というオンラインホワイトボードツールを利用して実施してみる。
miro による課題可視化
最近、オンラインホワイトボードツールである miro を知った。 これを使うと個人やチームで課題について可視化し、議論するのにとても便利だ。
課題分析に使うツールは紙、箇条書き、ホワイトボードでもよい。 組織での運用や使い勝手を加味して選択してほしい。
ここでは、IT業界ではよくある「チームがより成果を出せるようにしたい」という課題について考えることにする(課題を定める)。
この課題に対する切り口だが、まず「成果」とは何かを考える必要がある。 組織に応じて変わるだろうが、基本的に「ITシステムを通じて利用者への価値提供すること」が成果だ。
次に課題を分析するにあたり、多数の切り口を検討する。 切り口は定めた課題に対して関連があるものを列挙する。
- チームが時間を費やしていることはなにか?
- 成果が利用者に伝わっていないのか?
- どのようなアウトプットを出しているのか?
ざっくばらんに上記の観点で可視化してみたのが、下記の図だ。
課題が大規模になるにつれて、考慮すべき切り口はたくさん出てくる。 まずは課題の切り口について考えるようにして、課題の全容とさらに課題になっているポイントを浮き上がらせることが WHERE フェーズでは大切だ。 (統計学で言うところの主成分分析を行なっているようなイメージ)
このフェーズで重要なのは、有効そうな切り口を意識する のと MECE(もれなく、だぶりなく) 洗い出すことだ。 実際にやってみると、WHERE フェーズは手間がかかる。 しかし、ここで課題の分析をきちんと行えないと、後ほどの深堀りや対策を見誤る可能性がある。
一方で、課題に取り組める時間には限りがあり、また 課題は動き続ける的 のため、どこまで列挙すべきかは問題の緊急度に合わせる必要がある。
(2) 課題の原因を深堀りする (WHY)
WHERE フェーズで課題を列挙したが、次になぜこの状態になっているのかを深堀りする。 いわゆる、なぜなぜ分析だ。
WHERE フェーズで課題の全体感をつかんだ後、WHY フェーズではいよいよ課題の構造を分析して、課題の根本的な原因を深堀りする。 なぜを繰り返すと、課題の中でも原因が同じものや、課題が循環しているものが現れる。
miro の優れた点は、ポストイット間の関係を矢印で簡単に表現できるため、循環している課題について視覚的に発見しやすい。 (上記の分析で言えば、「ドキュメント作成に時間が取られているものの、あまり利用者に見られていない。時間が取られることで運用改善がしづらい」というような構造が矢印で見ることができる)
WHY を深堀りするときに、「論理的に正しい WHY」を考えられるのがベストだ。 科学的なアプローチで言えば、1つずつの根拠に実験や計算を元にしたエビデンスが必要となるが、実際のビジネスでは十分な証拠を集める時間や予算がなかったりする。
そのときにこそ、複数名や外部のステークホルダーと一緒に課題を見つめることにより、「論理的に正しそうな WHY と課題」を出すことができる。
(3) 課題の解決方法を検討する (HOW)
ここまででどのような課題があり、その構造について分析をおこなった。
アメリカの GM で研究長をしていたチャールズ・ケトリングの言葉で "A problem well stated is a problem half solved."
というものがある。
「明確に述べることができる課題はすでに半分解かれたものだ」と訳すことができるが、課題を明確にできれば後は解決の手段を実践するだけとなる。
では、どういった課題が解決すべき課題なのだろうか?
なぜなぜ分析をすると、「トレンドだから」「会社の方針だから」という大きな原因が現れることもある。 このとき、「課題とは何か?」に立ち戻ると、「解決できるもの」が課題なのだ。
そこで、出てきた原因の中で「自分たちが解決できそうな原因」は何かを選ぶ。 「解決できそうな」ものがポイントであり、ここまでの課題の分析はステークホルダーに説明することで解決につながるケースがある。
そのため、自分たちがすぐに行える原因のみに的をしぼらず、広い視野で原因の解決策を模索する必要がある。
また、課題の構造を見ると負のループになっている箇所や様々な課題につながる原因が現れることもある。 こうした矢印が集まる場所の原因を解決できると課題解決に大きく近づくことがある。
miro のケースはとても簡単な分析しかしていないが、「利用者に見られていないドキュメント作成を止めて、運用改善に時間をあてる」という HOW が考えられる。
+α 課題を分析し、解決し続ける
ここまで課題の解決までのシステマチックな手法を説明した。 しかし、課題は常に動き続ける的であり、ずっと同じ解決策が機能することはほとんどない。
そのため、常に課題と向き合い、都度ここまで行ったプロセスを通じて課題解決し続ける必要がある。 つまり、このプロセスをいかに正確に効率よく実施し続けられるかが課題解決力の高いチームを作るかの肝になると考えられる。
課題というのはどこにでも存在する。 働く上ではもちろん、生きていく上で課題に直面しないことはほとんどないだろう。 この記事に書いた手法が少しでも役に立てば嬉しい。
補足
課題について考え、解決するための方法を考えるアプローチについて考えると、これは科学につながると感じた。
科学は「客観的に再現可能な証拠」と「論理的な思考」を元に課題について分析して、どのようなアプローチが良いのかを考える。 重要な研究では、その課題を解決することで他の様々な課題があわせて解決されるというような事が起こる。 まさに、複数の矢印の向き先が集まるような原因だ。
参考
この記事を作るにあたり、下記の書籍を参考にした。 どれも個人的に課題を考えるにあたり大きな影響を与えてくれた。