LEAN ENTERPRISE - イノベーションを実現する創発的な組織づくり

小さく始めて、合理的に修正する


Posted on Wed, Jan 4, 2017
Tags lean, business, book

一文で表すと…?

リーン開発を大きな組織・企業で適用した場合のケーススタディが豊富な書籍で、様々なフレームワークを列挙して、それを基にどうやって組織と業務フローを改善したら良いのかを説明しています。

リーンな開発を企業に適用するためには

*2017/01/04 現在、Amazon Kindle 版がないため、O’REILLY のページ から電子書籍版を読むことができます。

リーン(Lean)な開発はもともとトヨタ生産方式など日本の製造業を分析し、その高い品質や工場稼働率の要因を調査して定義づけられた Lean Manufacturing (リーン生産方式, 原典) から来ています。リーン生産方式を簡単に説明すると、__商品を購入する顧客から見たお金を払う価値に重きを置き、無理・無駄・ムラをなくす__生産手法です。

では、リーン開発とは何でしょうか。リーン開発は__主にソフトウェア開発(他の分野でも適用可)において、顧客にとっての価値を重きに置き、それを確かめるための計測を簡単なプロトタイプ(MVP; Most Viable Product)を用いて行う__ことです。 言葉で説明すると簡単なのですが、実際の現場に適用しようと様々な問題が生じます。例えば、

  • そもそも価値とはなんだろうか? どういう感情を顧客に抱かせることを目指すのか?
  • 顧客とはそもそも誰なのか? どうやって顧客のフィードバックをもらうのか?
  • 計測は何を測るのか? どうやって測るのか?
  • プロトタイプはどこまで開発するのか

というような現場のエンジニアでは判断しにくい問題があります。そのため、リーン開発は現場のエンジニアだけではなく、その製品に携わるすべての人が時間をとって取り組まなければならない開発手法なのです。それらの課題を解決して成功した企業の方法、フレームワークがこの書籍では説明されています。

計測の重要性

僕がリーン開発で重要だと考えているものの一つは、客観的に顧客に価値を届けて行動に結びついているのかの計測__です(もう一つは__顧客にとっての価値は何かを追求すること)。 「リーン・スタートアップ」でも挙げられていますが、計測では実際に役立つ客観的な(計測者の意思に関わらず)数値を出す必要があります。例えば、ある機能を使ってもらった場合のコンバージョン率やプレミアム登録率などです。

また、それ以外の箇所(開発効率など)でも計測を行うことが推奨されており、それに基づいて実際のその製品をリリースすべきかどうかを判断するための材料にします。 面白いと感じたのは、チケット管理しているプロジェクトで、WIP(work in progress; 作業中)のチケット数をできるだけ少なく制限して、どんな状況でもこの制限を超えないように開発することを勧めている点でした。別の作業を行うことで発生する無駄を防ぐということが目的で、同様の理由で兼務もできるだけ減らした方がよいとしています。 こうした開発効率までも計測することで、プロジェクトが遅れた場合のタスクの優先度(遅延コスト)も客観的に判断することができ、実際のプロジェクトマネジメントにも役立ちます。

プロトタイプはどこまで開発するのか

では、計測を行うためのプロトタイプはどこまで開発すべきなのでしょうか? これについては、はっきりとした答えはなく、プロジェクトのステージによって異なると思います。 例えば、3つのプロダクトのアイデアのうちどれが良さそうかを計測する場合は、簡単なペーパープロトタイプでも良いですし、あるプロダクトの詳細な機能の有効性を測る場合は、その機能を実装して実際に触ってもらう必要があります。 本書では「今後の開発を見据えて、CI(継続的インテグレーション)を行うこと」と記されていますが、僕は必ずしもそこまでは必要ではないと考えております。ただし、こちらも現場のエンジニア判断だけでなく、マネージャーの判断が必要になるところでしょう。

リーン開発の文化を根ざすためには

2PT (2 Pizza Team)

リーン開発が機能するためには組織のサイズも見直す必要があります。現場の意見を適度に共有し、それをマネージャーが受け取って改善に活かすためには 2PT(2つのピザを分け合えるチームサイズ; 5~10名) までのチームのサイズに抑えるべきだとしています。

文化を根ざすには具体的な行動から変えていく

組織の文化という最も変わりにくいものを変えていく際、口頭で文化について述べるだけでは簡単に直りません。重要なのは、まずメンバーの行動が変わるような仕組みを作り、その行動を変えた理由としての文化を伝えることです。 「悪いのは人ではなく、仕組みの方だ」という格言があるように、まずは人を疑うのではなく、仕組みや環境を変えてみることが文化形成に役立ちます。それは、トヨタ生産方式をアメリカの工場で実現してみせたNUMMI工場の事例からも言えることだと思います。

現場のエンジニアよりも、リーダー、マネージャーが参考にしてほしい本

僕は企業の末端エンジニアとして働いており、リーン開発に興味があって読み始めたのですが、この書籍にも挙げられているように__リーン開発において重要なのはやり方ではなく、文化__という点からも組織づくりが行える役職の方が参考になると思います。お高い & ケーススタディが多い本 のため、もしご興味のある方は、リーン開発の背景を知ることができる第一章のイントロを書店で立ち読みすることをオススメします。 文化を根付かせるのは簡単ではありません。しかし、この記事でも挙げた 価値とは何かを追求する価値が届けられているかを計測する というリーン開発手法の有効性を地道に説明し、行動が取れるように仕組みを変えてゆけば、少しずつ浸透していくのではないでしょうか。

リーン開発関係書籍

現場のエンジニア的には「リーン・スタートアップ」の方が身近な話がされており、興味深かったです。マネージャーの方は逆に「リーン・スタートアップを駆使する企業」が様々な事例や困難であった点が書かれているため、参考になるかと思います。

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