世界最古の洞窟壁画…では、なかった
東京上野の国立科学博物館で行われているラスコー洞窟壁画展を見に行きました。 教科書に載っている有名な壁画だったので、勝手に勘違いしていたのですが(あるいは、教科書が発行された時点では正しかったのか)、世界最古というわけではなかったのですね。 ウラン・トリウム年代測定法 (原子の崩壊具合を測定して壁画がいつごろ作られたのかを推測する方法)で測った結果、ラスコー洞窟壁画は今から約2万年前に描かれたものであるとされています(測定法に興味がある方はこちらの論文)。
最初に、感想を述べると、「想像以上に写実的で洞窟という暗い空間でよく火を灯しながら精巧に描いたなぁ」と思いました。当時のクロマニョン人は何を思ってこの壁画を描いたのかを考えると想像が広がります。 クロマニョン人は最古のホモ・サピエンスと呼ばれておりますが、同じ時期に絶滅していたネアンデルタール人と混血し、現在の人類はその双方のDNAを受け継いでいるのだそうです。
実は同じフランスにより古い壁画がある
ラスコー洞窟壁画はフランス南西部のヴェセール渓谷で犬と遊んでいた子供が1940年に偶然見つけたものです。しかし、実は同じくフランス南東寄りのアルデシュ県で洞窟学者によってショーヴェ洞窟壁画が1994年に発見されました。 こちらも年代測定したところ、ラスコー洞窟壁画よりもさらに古い、約3万5000年前のものだと発覚しました。この地域は地質やプレートの関係上、壁画や彫刻が保存されやすいため、これほどまでに古い遺産が今も残るのですね(ちなみに、世界遺産が多い国はヨーロッパに集中している)。
最近、さらに古い壁画がインドネシアで発見された
2014年、インドネシアで革新的な発見がありました。それが、現在、最古の洞窟壁画であり、最古の芸術作品とも言われるプレイスト洞窟壁画です。こちらも同じくウラン・トリウム年代測定法で測ったところ、約4万年前の壁画だとわかりました(論文はこちら)。
この発見は様々な意味において画期的で、
- かつての人類(アフリカから世界中に散り散りとなった)はインドネシアにも存在し、壁画を描く文化水準を持っていた(日本人の祖先の可能性がある)
- 壁画の水準がヨーロッパのものと同じような水準であり、「芸術の起源はヨーロッパにある」という論説が覆された
- 当時、情報をやりとりする手段はなかったことから、ヨーロッパであれ、アジアであれ、ヒトはモノを描きたがるという生き物で、何も参考にしなかったら同じ水準の絵を描く ということ が分かりました。
2万年前、神は存在しなかった
当時の壁画を見ていると描かれる対象は動物や人に限られており、まだ神様のような存在は認識していなかったのではないかと推測します。そう考えると、現代の宗教が論理のベースにしている 「昔、神様が云々かんぬん…」という話は一体何なのか再考させられます。 また、国立科学博物館の「人類の進化展」でも記載がありましたが、昔の人類は様々な場所やホモ・サピエンスではないネアンデルタール人とも混血しているため、人種の違いというのは本来存在しないものだということは一考の余地があります。
参考URL
- TBSラジオのsession22では、ラスコー展を監修した海部陽介氏との対談番組が放送されました