TL;DR
Google の働き方を組織全体の視点から説明した書籍で、Google の work(仕事)だけではなく、どのような思想で機能している(work)のかを知ることができる良著です。
具体的には
著者は元Google CEOの Eric Schmidt、元シニア・バイスプレジデントのJonathan Rosenberg、そして Alan Eagle となっていますが、本の内容から察するに、Alanの視点から書いたものと思われます。 そのため、直接 CEO などの経営トップの話というよりは、それらの方々を知る人が自分の考えを実話とともに述べているといえるでしょう。
Google は間違いなく世界を動かしている企業の1つで、今ではすっかり世界の大企業の仲間入りを果たしていますが、その企業理念はこれまでの大企業とは大きく異なります。
スマートクリエイティブを雇う
まず、マネジメントに関しては、大企業にありがちなピラミッド型の組織(産業によっては効率的なのかもしれないが)ではなく、採用者が 自分の立場を危うくすると感じるほど優秀 だと判断した人達(スマートクリエイティブ)を雇い、それらのスマートクリエイティブが各々のやりたいことをできるような組織を作るということを重視します。
そのため、読んでいて気になったのが 優秀な人材を雇うこと の意義は出てきていても、優秀な人材へと育てること に関してはあまり触れられていないことです。新卒だとしても何かしらの起業経験や意欲のある人を採用しており、そこがいわゆる日本企業と大きく異なると感じました(雇用制度の違いもあるでしょうが)。
また、面接の回数と雇った人材の評価の関係を測定してグラフ化しているのも Googleらしさを感じます。ちゃんと客観的な証拠に基づいて判断を下すのは当然なのですが、実際は手続きが面倒で止めたりサボってしまうものです。ちなみに、面接回数は4回以上からあまり効果がなくなってくる。
圧倒的な技術的解決を目指す
スマートクリエイティブは自発的に仕事を見つけ、それに熱心に取り組むため、マネージャーは事業計画をあまり重視しません。Googleが製品開発でなにを重視するかというと、圧倒的な技術的解決 です。
例えば、Google Maps は利益から言うと初期投資が大きすぎて、もし事業計画を立てていたら、どう考えても中止になっていたでしょう。しかし、「全世界のどこからでも世界中の詳細な地図が簡単に見ることができる」という当時のコンピュータ資源から考えれば途方もない課題を解決できる技術力があり、さらにそれを作ることに意義があると考えたからこそ、Google Maps は実現しました。
まずは利益からと考えがちな製品開発で、1. 多くのユーザが解決を望んでいるのか 2. 解決するための手法は圧倒的な技術に基づいているか という点を重視しているのはこれまでの Google のプロダクトを見ていて納得します(検索やGoogle Driveを始め、最近では自動運転や人工知能など)。 これらの条件を満たすだけでも、ユーザから自然に広く使われていく製品ができます。また、よく使われる話ですが、フォードの創業者が言った「市場調査をしたら、世の人はより速い馬がほしいといっただろうね」という言葉のように、ブレークスルーの起こりえる製品は市場の意見では参考にならないことがあるため、技術的で突拍子もないアイデアを大切にするのでしょう。
10倍にしたらどうなるの?
アイデアに関しては、さらにスケールの大きさや挑戦を求めます。例えば、ある機能の改善で10%性能が上がることよりも、0から発想を変えて、200の性能を求めることをGoogleでは良しとします。そのためには、大量のリソースを割り振り、凡庸な解決策にならないようマネジメントします。 こうした考えはコツコツと改善を積み重ねていく日本人のマインドには合わない部分もあるでしょうが、Google創業者のラリー・ページはよくプロダクトのレビューをする際に「10倍のスケールで考えろ」と伝えるらしいです。
OKR (Objectives and Key Results)
数値をベースに客観的に物事を見る Google がどうやって組織を評価するのか。これが面白いのですが、日本の感覚では 100%出し切れたら 100点となるような評価システムを作りがちです(これは教育制度の影響もあるでしょう)。 しかし、Googleで使われている OKR (Objective and Key Result) は、
- まず企業として進むべき道にあっている 質の高い目標を設定
- 目標を 具体的かつ実現できなさそうな数値 で定義 し、70% でも良いから評価する
という方法です。
これにより、組織の評価で行いがちな 1. 達成しやすそうな目標を設定する 2. 目標の値を低く、あいまいに設定する ということを防ぎます。そのため、進捗が遅くても着実な進歩が行えるという風になっているのです。
世の中に出してから考える(良い失敗を積む)
これはリーン・スタートアップの発想でもありますし、ファーストリテーリングの柳井社長も「早く失敗し、早く修正する」という言葉と重なるところがありますが、結局、どんなに頭で考えても実際に行ってみないとわからないことはたくさんあります。 上記のような取り組みを行っているGoogleですら沢山の失敗を犯しています(失敗と定義すべきかはさておき)。重要なのは、早く小さく失敗して、大きな成功を得ることでそれができるような評価制度を作る必要があります。
客観的に自分を見つめる
組織が自分のやり方に固執してしまい、取り返しのつかない選択をしてしまうのは、複数人で働く企業だからこそ常に付きまとう問題です。本の中でも「自分が一番嫌だと思う質問に向き合う」ことの大切さが書かれています。一度手を付けたプロダクトは失敗をしたくないからこそ、見極めができなくなり、より失敗できない沼にはまっていくのです(サンクコスト)。
そのための道具が客観的な数値であり、物事を好きなだけ言える組織づくりということなのでしょう。